タコの文明記憶を受け継がない賢い種
タコは賢いが寿命は2年に満たず、母親は卵がかえると死ぬ。模様に記憶を持たせることはできるか?ゲームの背景にある実際の研究。
タコは賢いのに、学んだことを次の世代に教える機会がほとんどない。寿命は1年から2年しかなく、母親は卵がかえるまで守り続けたあと、死ぬ。ゲームの「タコ文明」はこの事実から出発し、問いかける。もしタコが記憶を残せたら、どうなるのか。
このページでは2つの部分を分けて書く。1つ目は本物のタコの生物学で、すべての項目はゲーム内のノードの「実際の根拠」に基づく。ゲーム設定(タコが実際に文明を発展させること)は別に明記する。末尾の「関連する本物の研究」には、このテーマに関係する科学的発見をいくつか挙げる。それらはタコ文明という発想の証拠ではない。
タコの体:広がった知性
- 腕の自律性:約5億個のニューロンのうち、3分の2が8本の腕にある。切り離された腕でも、刺激に反応してつかむ動きをする。
- 腕間の神経輪:8本の腕の付け根は神経の輪でつながっていて、腕どうしが脳を通さずに信号をやり取りできる。
- 銅の血:タコの血は青く、酸素を運ぶのは銅を含むヘモシアニン。タコには心臓が3つあり、そのうち2つは鰓のためだけにある。
- 上陸:あるタコは水から上がり、潮だまりの間の岩場を腕で「歩いて」渡る。
話す皮膚、色を見ないかもしれない目
タコの皮膚には、筋肉で制御される色素胞が数千あり、1秒足らずで色と模様を変えられる。おもしろいことに、ほとんどのタコは光に感じる色素を1種類しか持たず、おそらく色は見えないが、光の偏光は見える。それでどうやって背景の色になっているのかは、まだ決着がついていない。
擬態は、この能力の見せ場だ。1998年にインドネシアで発見されたミミックオクトパスは、ミノカサゴ、ウミヘビ、ヒラメの姿や動きをまねられる。いっぽうコウイカは、むしろ「話している」ように見える。求愛や、ライバルとの対峙のときに、体に沿って流れる暗い帯のような模様を素早く「演じる」。これは「通り過ぎる雲」と呼ばれる。
2021年の研究では、タコに2つの睡眠状態があることも分かった。「動的な眠り」では、皮膚が模様をすばやく次々に切り替え、その日の経験を再生しているかのようだ。
道具、住まい、集落
タコは巣穴を選んだり掘ったりして、入口を石や貝殻でふさぐ。2009年、インドネシアの科学者が、アミメダコがココナッツの殻の半分を体の下にはさんで運び、危険が迫るとその中に隠れるところを撮影した。無脊椎動物が道具を使った最初期の記録の一つだ。
2017年、オーストラリアのジャービス湾で、ワモンダコの仲間の集落が見つかった。十数匹のタコがいっしょに暮らし、捨てられた貝殻の山から巣穴を作っていた。研究者はそれを「オクトポリス」と呼んだ。貝殻の山は食べ残しにすぎないが、考古学者は人間の貝塚から、古代の人々の暮らしを読み取ることが多い。
母親はなぜ死ぬのか
1977年の実験で、メスのタコは産卵後に食べるのをやめて死ぬことが分かった。原因は、目の後ろにある視腺だ。視腺を取り除くと、メスは再び食べ始め、長く生きた。これが、タコに「前の世代がいない」生物学的な理由だ。
さらに印象的な発見は深海から来た。2023年に発表された研究で、カリフォルニア沖の水深約3,200メートルの熱水噴出域に、抱卵中のパールオクトパスが数千匹集まっていることが示された。温かい水のおかげで、卵は2年足らずでかえる。冷たい深海なら5年から8年かかるところだ。
ゲームでの考え方:タコ文明
ここから先はゲーム設定であり、実際に起きたことではない。ゲームでは、このチャンネルの場所は「地球の海」。資源は「模様」で、文明の樹で「タコ文明」を解放すると見つかる。そのためには3回の大量絶滅を通して頭足類を守る必要がある。中心となる仕組みは世代交代だ。世代(約30分)が替わるごとに、体や環境に刻まれなかった「模様」の一部しか残らない。記憶のノードを解放するほど、受け継がれる量が増える。
ゲームのシナリオでは、タコはまず夢の中でその日の経験を見直す。模様はやがて組み合わせられる言葉になり、石に刻まれ、ついにタコは岸辺の直立した動物に気づく。シナリオには2つのエンディングがある。人間といっしょに暮らす道と、深海へ退く道だ。すべてフィクションだ。本物のタコに文明はない。
チャンネルの中の2つのノードは現実に由来するので、触れておく。人間の文字は最初、粘土板や亀甲に刻まれ、知識が書いた人より長く生き延びることを初めて可能にした。潮汐は月と太陽の重力によって起こり、ほとんどの海岸で、海は一日に2回満ち引きする。
関連する2つの小説
- 海底二万里(ジュール・ヴェルヌ、1870年):ダイオウイカは実在し、生きた個体が野生で初めて撮影されたのは2004年のことだ。
- チルドレン・オブ・ルーイン(エイドリアン・チャイコフスキー、2019年):タコの分散した神経系と色を変える能力は本物だ。タコが言語と文明を進化させるのはフィクションだ。
関連する本物の研究
以下の研究は、タコ文明のテーマに関係している。このチャンネルの発見条件が、3回の大量絶滅を通して頭足類を守ることだからだ。生命史の大きな出来事についての研究であり、タコ文明という発想の証明ではない。
- 白亜紀末の地層にはイリジウムが豊富で、アルバレス父子は、小惑星が地球に衝突したと結論づけた(Alvarez ら、Science、1980年)。
- メキシコのユカタン半島の地下に、幅約180kmのクレーターがあり、まさにその小惑星が衝突した場所だ(Hildebrand ら、Geology、1991年)。
- ペルム紀末の大量絶滅は、わずか約6万年で起きた可能性があり、シベリアの火山活動の時期と一致する(Burgess、Bowring、Shen、PNAS、2014年)。
- ナミビアの岩石層は、約7億年前の地球がほぼ全面を氷に覆われていた可能性を示している(Hoffman ら、Science、1998年)。
- ディッキンソニアの化石に保存されたコレステロール型の分子は、この謎の生物が動物だったことを示している(Bobrovskiy ら、Science、2018年)。
実際の根拠
巣穴:タコは巣穴を選んだり掘ったりして、入口を石や貝殻でふさぐ。
色素胞:タコの皮膚には、筋肉で制御される色素細胞が数千個あり、1秒足らずで色と模様を変えられる。
腕の自律性:約5億個のニューロンのうち、3分の2は8本の腕にある。切り離された腕でも、刺激に反応してつかむ動きができる。
銅の血:タコの血は青い。酸素を運ぶのは、銅を含むヘモシアニンだ。心臓は3つあり、そのうち2つはえらに血を送るためだけにある。
ココナッツの鎧:2009年、インドネシアの科学者たちは、ヤドカリダコが半分に割ったココナッツの殻を体の下に抱えて運び、危険なときにその中に隠れる姿を撮影した。無脊椎動物による道具使用の最も早い記録の一つだ。
擬態:1998年にインドネシアで見つかったミミックオクトパスは、ミノカサゴ、ウミヘビ、ヒラメの姿と動きをまねられる。
腕間の神経環:8本の腕の付け根は神経の輪でつながっていて、腕どうしが脳を通さずに信号をやりとりできる。
偏光視:ほとんどのタコは光を感じる色素を1種類しか持たないので、おそらく色は見えないが、光の偏光は見える。背景の色に自分をどう変えているのかは、まだ決着していない。
色を変える夢:2021年の研究で、タコには2つの睡眠状態があることがわかった。「活動睡眠」のあいだ、皮膚は素早く模様を巡らせ、まるで1日を再生しているようだ。
オクトポリス:2017年、オーストラリアのジャービス湾で、ドーナツダコのコロニーが見つかった。十数匹のタコが一緒に暮らし、残った貝殻で巣穴を作っていた。研究者はそれを「オクトポリス」と呼んだ。
貝殻の記録:貝殻の山はただの食べ残しのごみだが、考古学者は人間の貝塚から、古代の暮らしをよく読み取る。
皮膚の言語:コウイカは求愛やライバルとの対決のとき、体の上で素早く模様を「演じる」。たとえば暗い帯が体を流れていく「通り過ぎる雲」だ。
温泉の保育所:2023年に発表された研究。カリフォルニア沖の水深約3200 mの温泉のそばで、何千匹ものパールオクトパスが卵を抱いていた。その温かさで卵は2年足らずで孵る。冷たい深海なら5〜8年かかる。
上陸:水から出て、潮だまりのあいだの岩の上を腕で「歩く」タコがいる。
視腺:1977年の実験で、メスのタコが産卵のあとに食べるのをやめて死ぬのは、目の後ろにある視腺が原因だとわかった。視腺を取り除くと、食べるのを再開し、より長く生きた。
石の上の模様:人類の文字は最初、粘土板や亀の甲羅に刻まれ、知識が書き手より長く生き延びることを初めて可能にした。
潮の暦:潮汐は月と太陽の重力で起こる。ほとんどの海岸で、水は1日に2回満ち引きする。
『海底二万里』(ジュール・ヴェルヌ、1870年)の科学:ダイオウイカは実在し、生きた個体が野生で初めて撮影されたのは2004年。
『Children of Ruin』(エイドリアン・チャイコフスキー、2019年)の科学:タコの分散型神経系と体色を変える能力は本物。タコが言語や文明を進化させるのはフィクション。
関連する研究
これらの研究はこのトピックに関連しますが、このページの直接の証拠ではありません。
全球凍結:ナミビアの岩石の層は、約7億年前に地球がほぼ全面を氷で覆われていた可能性を示している。
出典:Hoffman et al., Science 1998, "A Neoproterozoic snowball Earth"
恐竜絶滅の謎:白亜紀末の地層ではイリジウムが異常に濃集しており、アルバレス父子は小惑星が地球に衝突したと結論づけた。
出典:Alvarez et al., Science 1980, "Extraterrestrial cause for the Cretaceous-Tertiary extinction"
クレーターの発見:メキシコのユカタン半島の下に埋もれていたのは、直径約180キロのクレーター。まさにあの小惑星が残したものだった。
出典:Hildebrand et al., Geology 1991, "Chicxulub Crater: A possible Cretaceous/Tertiary boundary impact crater on the Yucatán Peninsula, Mexico"
最古の動物:ディッキンソニアの化石にはコレステロール系の分子が保存されており、この謎の生物が動物だったことを証明した。
出典:Bobrovskiy et al., Science 2018, "Ancient steroids establish the Ediacaran fossil Dickinsonia as one of the earliest animals"
最悪の大量絶滅:精密な年代測定によると、ペルム紀末の絶滅はわずか約6万年で終わった可能性があり、シベリアの火山活動と一致する。
出典:Burgess, Bowring & Shen, PNAS 2014, "High-precision timeline for Earth's most severe extinction"
ゲーム設定(創作)
- ノード「色の変わる夢」:彼らは夢のなかで予行演習をする。
- ノード「貝殻の記録」:ここでは、貝殻の並べ方が、記録をつける記号になっている。
- ノード「肌の言語」:模様が、組み合わせられる言葉になる。
- ノード「長老」:視腺からの信号が書き換えられる。母親は子が育つまで生き、タコに初めて「前の世代」ができる。
- ノード「石の上の模様」:彼らは自分の肌の言葉を、石に刻む。
- ノード「潮のカレンダー」:岸にいるタコは、潮で時を測っている。
- ノード「岸の人々」:彼らは岸にいる直立した動物に気づき、その舟や灯りを目にする。
- ノード「海の文明」:八本の腕がそれぞれ自分で考え、それから一緒に決める。人間のものとはまったく違う種類の文明。
- チャンネルのエンディング「共生」:人間とタコは、模様と身ぶりで話せるようになった。一方の文明は二本の脚で陸に上がり、もう一方は八本の腕で海を守る。この周回では、主文明の「文明」と「星間文明」の産出が+15%。
- チャンネルのエンディング「深海」:タコの文明は、人間の届かない深みへ退いた。数世紀後、人間の潜水艇がたまたま、誰も読めない模様が刻まれた海底を撮影する。
- 小説『海底二万里』のあらすじ:博物学者が謎の潜水艦ノーチラス号に捕らえられ、ネモ船長とともに海底を旅する。巨大な頭足類の群れとの戦いまで経験する。
- 小説『Children of Ruin』のあらすじ:人類は遠い惑星でタコに知性を与える。その心は8本の腕のように分散していて、変化する肌の模様で意思を伝え合う。